いつもオーダースーツの豆知識をご覧いただきありがとうございます。
今回もオーダースーツの世界をいろいろな角度からご紹介します。
愛着を込めて仕立てたオーダースーツが、ふとした瞬間に破れてしまった。そのショックは計り知れないものがあるでしょう。しかし、ここで諦める必要はありません。オーダースーツは、適切な対処をすれば美しく蘇らせることができます。この記事では、オーダースーツ専門のテーラーとして、破れてしまった際の最善の対処法を、修理から交換まで余すところなく解説します。あなたの大切な一着を、もう一度輝かせるためのお手伝いをします。
1. なぜ?オーダースーツが破れる原因
大切に扱っているはずのオーダースーツがなぜ破れてしまうのでしょうか。その原因を知ることは、今後の予防にも繋がります。主な原因は「経年劣化」「摩擦」「突発的な事故」の三つです。長年の着用で生地の繊維が弱くなるのは自然なこと。特にウールなどの天然繊維は、時間と共に少しずつ耐久性が落ちていきます。
また、スーツで最もダメージを受けやすいのは、動きの多い部分です。脇の下や肘、パンツの股部分やお尻、膝などは、日常の動作で常に摩擦にさらされます。この積み重ねが、ある日突然、生地の限界を超えて破れに繋がるのです。その他にも、釘などに引っ掛けてしまう、タバコの火で穴があく、虫に食われるといった予期せぬ事故も原因となります。
2. まずは相談を!修理という選択肢
オーダースーツが破れた時、まず行うべきは購入したテーラーへの相談です。自己判断で修理したり、放置したりするのは避けてください。私たちプロは、生地の種類や破れの状況を見極め、最適な修理方法を提案できます。スーツの修理には、状態に応じていくつかの方法が存在します。
最も美しい仕上がりを期待できるのが「かけつぎ(共布修理)」です。
スーツを仕立てた際に残しておいた同じ生地(共布)を使い、破れた部分を織り込むように修復する高度な技術。修理跡がほとんど分からなくなり、まるで新品同様の状態に戻せます。そのためにも、スーツ購入時に共布を必ず受け取り、大切に保管することが重要です。
比較的安価で強度を重視するなら「ミシン修理(タタキ仕上げ)」という方法もあります。
裏から当て布をし、ミシンで細かく縫い合わせることで強度を高めます。ただし、修理箇所は少し目立つため、ジャケットの裏側やパンツの股下など、見えにくい部分に適しています。小さな穴であれば、接着修理という応急処置もありますが、耐久性は高くありません。
また、スーツの着心地や袖通りを左右する「裏地」の破れも見逃せません。
汗による劣化や長年の着用による摩擦で、背中や脇の部分が破れてしまうこともよくあります。その際は、破れた箇所だけを補修する「部分補修」や、裏地全体を交換する「全面張り替え」という選択ができます。部分補修は手軽ですが、全面張り替えを行えば、新品同様の快適な着心地が蘇ります。これを機に、全く違う色や柄の裏地に変えて、自分だけのカスタマイズを楽しむのも粋な選択でしょう。
オーダースーツの修理方法一覧表
| 破れの状況・箇所 | 推奨される修理方法 | 費用の目安 | メリット | デメリット |
| ジャケットの表地、目立つ箇所のカギ裂き・穴 | かけつぎ(共布修理) | 15,000円~ | 修理跡がほとんど目立たない | 高価、共布が必要 |
| パンツの股、お尻、膝の擦り切れ | ミシン修理(タタキ仕上げ) | 5,000円~ | 安価で強度が高い | 修理跡が目立つ場合がある |
| 小さな虫食い穴 | かけつぎ、または穴かがり | 8,000円~ | 状態に応じて最適な方法を選べる | 小さくてもかけつぎは高価 |
| 裏地の破れ | 裏地の張り替え・部分補修 | 6,000円~ | 見た目が綺麗になり、着心地も改善 | 全面張り替えは高価になる |
| 突発的な大きな破れ | 状態により判断 | 要見積もり | まずはプロに相談することが最善 | 修理できない場合もある |
3. 修理が難しい場合の最終手段
残念ながら、全ての破れが修理できるわけではありません。破れが広範囲に及んでいる場合や、生地全体の劣化が激しく、修理しても他の部分からすぐに破れてしまうような状態では、修理をお断りすることもあります。また、特殊な織りや素材の生地は、かけつぎなどの修理が物理的にできないケースも存在します。
しかし、修理が難しいと判断された場合でも、まだ道はあります。それは「パーツの作り直し」という選択です。例えば、スラックスだけが激しく損傷した場合、同じ生地の在庫がテーラーにあれば、スラックスだけを新しく仕立てることができます。これにより、ジャケットはそのまま活かし、スーツとして再び着用できるのです。
もし、共布も在庫生地もない場合は、新しい一着を仕立てる良い機会と捉えることも一つの考え方。今回の経験を活かし、次はより耐久性の高い生地を選んだり、消耗しやすいパンツを2本作る「ツーパンツスーツ」で注文したりするなど、より長く付き合えるオーダースーツを仕立てることに繋がります。
4. 愛着あるスーツと長く付き合う

オーダースーツは、あなたの身体に合わせて作られた特別な一着です。単なる仕事着ではなく、大切な場面で自信を与えてくれる、まさに「相棒」のような存在でしょう。だからこそ、破れてしまった時のショックは大きいですが、決してそれで終わりではありません。
今回ご紹介したように、専門家であるテーラーに相談すれば、かけつぎやミシン修理など、様々な方法で蘇らせることができます。万が一、修理が難しい状態であっても、パーツの作り直しや、新たな一着への新調という選択肢が残されています。大切なのは、諦めずにまず専門家に見せること。私たちは、あなたのオーダースーツへの想いに寄り添い、最善の解決策を一緒に見つけ出します。日頃から愛情を持ってメンテナンスを行い、万が一の際には私たちを頼ってください。そうすれば、あなたのオーダースーツは、これからも長く輝き続けるでしょう。

